わたしが「夏」と言えば、
今は「2019年の夏」のことを指す。
夏。
好きな人に、
「目逸らさないでよ」
と真っ直ぐな目で言われた夏。
好きな人に、
おいで、と誘われて
初めて六本木に出向いた夏。
わたしは夏が嫌いだった。
灼熱の太陽も、特有のムシムシも、汗で張り付く前髪も。
外に出るのすら嫌で、夏はいつも涼しい屋内に引きこもるような、そんな子だった。
だけど。
好きな人に誘われて行く灼熱の六本木は、不思議と嫌じゃなかった。
初めて入るEXシアターは、
わたしが経験してきたどの会場より圧倒的に狭くて、
手を伸ばせば届いてしまいそうなほど、
とても近い、ステージ。
どきどきしてたまらなくて、
慌てて母に連絡をした。
好きな人に誘われて、
初めて彼に会う六本木。
開演まであと5分。
その時間が永遠に感じた。
客電がぱっとおちて、
会場が軽い悲鳴に包まれる。
わたしはこの瞬間が好きだ。
「はやく会いたい、はやく出てきて」と、
逸る気持ちを抑えながら、
ステージを見つめる時間が。
扉が開き、大好きな6人の影が見えた瞬間、
どうしようもなく嬉しくて、
叫ばないようにペンライトを振った。
(ひとり参戦だったので恥ずかしかった)
中盤のMCがすぎて、
那須くんのソロが終わる。
ふわふわとして幸せに溢れる「このままもっと」を歌った那須くんの優しい時間がEX中に漂っていたそのとき、
不穏なパイプオルガンの音色が響き、
EXの空気が一変する。
「きた」
そう思った。
青一色だった会場が
ぱぱぱっとオレンジに変わる。
2019年から公式ペンライトに導入された「オレンジ」
それがわたしの好きな人のイメージカラーだ。
会場の視線が上手側のバルコに集中する。
わたしは上手側の1番壁側に身体をつけていたので、その人の姿は見えない。
叫び声がする。
きっと彼がそこにいる。
彼の声がする。
その姿はモニターに映っているけど、
わたしはどうしてもこの目で見たかった。
上手のバルコに続く階段を見ていたら、
赤いマントがひらり、と舞うのが見えた。
自分を闘牛かと思ってしまうほど、
その真っ赤なマントから目が離せなかった。
その日、彼はグループ内で流行っていたカラートリートメントで自らの髪をほんのり赤く染めていた。
メインステージに降りてきた彼の赤いカラコンの入った目を見た瞬間、身が固まってしまった。
その目がわたしを突き刺した。
いっそ殺してくれ、その目で、その歯で、殺してくれ、そう思った。
着ていた上着をばっと脱いだ瞬間、わたしの記憶がぶつっと落ちた。
EXから出たら、外はもう真っ暗だった。
空に、都心の夜景に負けてしまいそうな、小さな輝きの星を見た。
この輝きは、6人だと思った。
みんな、こんな小さい会場でキラキラ輝く6つの彗星たちを知らないだろう。
周りの輝きが強すぎて、埋もれてしまってるかもしれない。
空を見上げた人にしかわからない、その輝きを、世界中の人に見てもらうんだ、ただただ強く思った。
真夏の夢は、その暑さに浮かされた人が見るものだと言う人がいる。
わたしは真夏に夢を見た。とても鮮明な夢だった。
わたしの好きな人が笑ってた。好きな人たちが笑ってた。わたしの好きな6人の光景がそこにあった。
うだるような暑さの日だった。もしかしたら夢かもしれない。
だけど、その夢は夏が終わって年が明けても続いていた。終わることのない夢だった。
好きだ、と感じた。背中を押し続けて、たまに抱きしめて、止まることがあっても、そんな彼を受け止めて、守って、誰よりも愛したいと思った。
わたしは「夏」が好きになった。